法定点検による売却時の加点評価は一切なし?

自動車の法定点検の模様

車業界に勤務していると法定点検のことを否定しづらい一面を持ちます。
法定点検は乗用車12ヶ月、商用車6ヶ月の車検の中間時期に受ける点検で、国土交通省(道路運送車両法)によって義務づけられている点検ですが、車検とは違い法定点検を受けなくても法的な罰則はありません。

整備をはじめ販売や買取などの車業界に携わっている場合、法定点検を否定するとモグリの業者だと捉えられるリスクがあります。
そこで、お客から「法定点検は受けた方がいいですかね?」って聞かれた、YESと答えるしかないのですが、元業界人の私がズバリ断言すると、車の法定点検を受ける必要性は非常に低いです。

また、全体的な傾向として新車を買って間もない方が毎年法定点検を受けるケースが多いのに対して、5年以上経過している古い車は法定点検を受ける方が少なく、無駄なお金の使い方をしている人が多いように感じています。
法定点検の必要性と売却時の査定評価への影響を、元中古車買取店勤務の著者が業界の裏事情による暴露話を織り交ぜながら解説します。

法定点検はボロ儲け

乗用車の法定12ヶ月点検基本料金は、業者や車種(クラス)によって1万円から1万5千円が相場。
高級車や大型ミニバン、外車は2万円を大きく超えることもあります。
それに対して法定点検にかかる所要時間は洗車・記録簿の記入まで入れて1時間程度。
ディーラーでは整備士1人で1日8件の法定点検の予約を詰め込むこともあります。

さらに、法定点検は基本的に点検やボルトの増し締め・タイヤローテーションなどの軽整備だけで、多くの方はオイルなどの消耗品交換も一緒に依頼するものです。
そうすると消耗品交換の部品代と工賃の利益も上乗せされるので、1時間で平均2万円前後の利益が出ています。
整備士の工賃は1時間あたり5,000~8,000円とされていますが、法定点検は一般整備よりも時間単価が圧倒的に高いです。
ディーラーで新車購入すると担当者から「法定点検を受けませんか?」と営業電話が来るのは、利益が出やすい法定点検に対してノルマを課しているからです。
さらに、ディーラーの多くは営業マンに対して法定点検1件毎に歩合給を用意しています。

法定点検は何をするの

自動車のボンネットの中を見て不具合を点検する

乗用車が行う正規の法定12ヶ月点検は以下26項目の点検が義務づけられています。
著者が法定点検を受けなくてもいいと思う理由を添えて紹介いたします。

エンジン
1.オイルの漏れ ポタポタ垂れれば駐車場の汚れで気付く。滲み程度はすぐに対処しなくても事故・故障に繋がらない
2.冷却水の漏れ 冷却水が漏れてたら警告灯で気付く、滅多に漏れるものではない
3.ファンベルトのゆるみ・損傷 寿命が来る前にベルト鳴りがする。亀裂のチェックは車検毎の点検で問題なし
4.排気ガスの状態 問題があればすぐに気付く。軽微の不具合はすぐに対処する必要なし
5.エアクリーナーエレメントの状態(汚れ・詰まり・損傷) 車検毎の点検で十分
電気装置
6.点火時期 問題があれば乗っていてエンジンや始動の不調に気付く
7.ディストリビュータのキャップの状態 滅多に壊れない、問題があればエンジン・始動の不調に気付く
8.スパークプラグの状態 一般的な交換時期が来てから2~3万kmは普通に走れる部品。車検毎の点検・交換でOK
9.バッテリーターミナル部のゆるみ・腐食 古い車で見られる不具合。車検毎およびバッテリーの交換時期さえ把握していれば1年毎に点検する必要なし
10.各種ペダルの遊び、踏みこんだ時の床板とのすき間 問題が出るほどの不具合が出ることは少ない。異常があればすぐに分かる。(不具合発生→すぐに危険な状態になることは少ない)
11.ブレーキのきき具合 異常があれば気付く。この項目は工場内の移動で確認するだけ。
ブレーキ回り
12.パーキングブレーキの引きしろ(踏みしろ) 要調整になるほどの不具合は滅多に発生しない。車検毎の調整で十分
13.パーキングブレーキのきき具合 AT車は少し緩んでも問題なし。MT車は停車時にギア入れをすればOK、調整は車検毎で十分
14.ホース、パイプの調整 不具合があればすぐに気付く。車検で点検・整備していれば1年で不具合が出ることはほとんどない
15.フルードの液漏れ(マスタシリンダー、ホイールシリンダー、ディスクキャリパ) 不具合があればすぐに気付く
16.ディスクとパッドのすき間 滅多にズレるものではない
17.パッドの摩耗 ブレーキ鳴りがしてから交換を検討すれば問題なし
18.ドラムとパットのすき間 車検毎の調整で十分
19.ドラムブレーキシューパッドの摩耗 ドラムブレーキは寿命が来てから完全にブレーキが効かなくなるまで時間がかかる(1年毎の点検をする必要なし)
ハンドル
20.パワーステアリング装置 滅多に故障するものではない。バラさない点検では摩耗状態を確認できない
動力伝達装置
21.クラッチペダルの遊び、切れたときの床板とのすき間 不具合が出ればすぐに気付く、車検毎の調整で十分
22.プロペラシャフト・ドライブシャフトの緩み 滅多に緩むものではない、車検毎の点検で十分
23.トランスミッション・トランスファの漏れと量 滅多に不具合が出るものではない、異常が出ればすぐに気付く
24.タイヤの状態 溝など日常点検での把握で十分/td>
25.ホイールナットとボルトの緩み 取り付け時に締め忘れをしていない限り、自然に緩むことは滅多にない
26.エキゾーストパイプ、マフラーの緩み、損傷 滅多に緩むものではない。損傷があれば排気音や煙などで気付く
法定点検を受けるポイント

法定点検は事故の防止と主要部品の故障を未然に防ぐ目的で行われています。
ただし、安全に直結する部分は突然不具合が発生することはなく、何かしらの前兆が現れるものです。
また、消耗品の適切な交換時期を走行距離と経過年数で管理して交換すれば大きな故障を起こすリスクが軽減されます。

大半の点検項目は車検(法定24ヶ月点検)だけ受けていれば問題ありません。
車検時にしっかり整備していて、なおかつ距離をあまり走らない人は法定点検を受ける必要性が低いでしょう。
距離を乗る人の場合は、深刻な不具合発生前に何かしらの前兆が出るので、症状が出てから整備業者に見てもらえれば問題ありません。
距離をたくさん乗るけど、ブレーキやベルトの鳴り、ブレーキが甘くなったりエンジンの異音に気付ける自信がない人は法定点検を受けおくと安心です。
法定点検を受けない場合は、オイル、バッテリー、タイヤなど主要な消耗品の交換時期をしっかり自己管理しておきましょう。

高年式ほど法定点検入庫率が高い理由

車は経年数と走行距離によって摩耗する部品が多いので、古い車になるほど点検を受けて不具合を指摘されたり部品交換を勧められるケースが多くなります。
また、整備業者はクレーム回避および売上の確保を目的に、本来は交換時期ではないけど、そろそろ危ない部品の交換も積極的に勧めてきます。

結果的に、新しいうちはプロから問題なしのお墨付きをもらう安心感や整備履歴を充実させる自己満足を得るために法定点検を受けるけど、古くなってくると基本料金以外の見積が出てくるリスクを理解し、断ったり高額なお金を払うのが面倒になって、法定点検を次第に受けなくなっていってしまいます。

つまり人間心理の影響によって、法定点検を受ける必要性が低い高年式・低走行車両ほど法定点検入庫率が高く、点検の必要性が高い低年式・過走行になると法定点検入庫率が低くなる傾向が顕著に出ています。
新しい車や前回の車検から距離を走っていない車でも法定点検や消耗品交換をすれば、より高い安心を得られますが、料金に見合う価値があるかは人それぞれの価値観によって変わってきます。

法定点検の査定評価について

自動車の修理点検をする作業員

車を売る時に受ける査定はディーラーなどが行うマニュアル査定と、オークション落札相場などを元に算出する裁量査定の2種類があります。
マニュアル査定の場合、広く使われているJAAI(日本自動車査定協会)の基準によると、直近1年以内(商用車は半年以内)に法定点検を受けていると1万5千円の加点が可能です。
なお、加点してもいいと記載されているだけで、必ず加点されるとは限りません。

車の売却方法がディーラー下取り1択であれば法定点検を受ける価値がありますが、売る直前に1度だけ法定点検を受ければ新車から欠かさず法定点検を受けてきた車と同等の評価を得られます。
また、何度も法定点検を受けてきた車でも、直近1年で法定点検を受けた履歴がなければ、一度も法定点検を受けていない車と同じ評価になってしまいます。
そもそも、法定点検の加点を行わない裁量査定の方が高額査定を期待できるので、将来の売却価格を見据えて法定点検を受ける価値は限りなく低いです。

改善不能な不具合はほとんど存在しない
自動車の修理点検の見積もりをする

法定点検そのものには、タイヤローテーションでタイヤの寿命を延ばす以外、各種消耗品やエンジンの寿命を長くする効果はありません。
基本料金による26項目の点検整備だけ行っても、不具合がなければ車にとって良い影響はほとんどないことを覚えておきましょう。

全く整備していない車の場合、査定するときに不具合があれば減点されますが、2000年以降に生産された国産乗用車は簡単に壊れるものではありません。
オイル交換を長年していなければ燃費悪化や燃焼室に汚れの沈着が出てきますが、1回のオイル交換で快適に乗れる状態まで回復し、ブラッシングや添加剤などのメンテナンスで定期的にオイル交換をしてきた車の状態に限りなく近づきます。
つまり、法定点検の有無や整備状況を問わず、症状の出ていない摩耗や不具合の多くは再販時の基本整備で対処できます。

車の買い手から見た場合、前オーナーが売る直前に法定点検と消耗品交換をしてミッチリ整備しているけど現状販売になる車と、整備手帳の記載はないけど中古車販売業者が責任を持って整備してから再販する中古はどちらの信頼性が高いと思いますか?
現状販売は保証がつかないことを考えれば、整備手帳がなくても再販整備済みで1~3ヶ月の保証販売をする中古車に魅力に感じる人が多数派でしょう。

売る前の整備状況を重視している買い手が少なく、法定点検を受けた履歴で車の寿命や不具合リスクが大きく変わる原理ではないことが、法定点検の査定評価が低くなる理由です。
なお、ヤフオクなどでインターネットを通じた個人売買で売る場合は、法定点検を受けた履歴は大きなアピールポイントになります。
点検にかけた費用を売却価格で回収できるかは別にして、業者に売るよりかは法定点検を受けている恩恵が大きいです。

おわりに

夕暮れ時の乗用車の運転席からの景色

私は長年、中古車買取業者で勤務してきました。
当時は仕事を紹介(横流し)してくれるディーラーから法定点検を受けるように懇願されることも多く、1年に複数のディーラーから3回以上も自家用車の法定点検を受けたこともあります。

声がかからなければ法定点検を受けずに車検を迎えることもあり、車買取業者を退社してからは一度も法定点検を受けていません。
あくまでも私の感覚ですが、車検で最低限の整備と調整さえしていれば、法定点検の有無で目に見える変化を実感することはないです。
最近の車は優秀なので、エンジンやブレーキの不具合が出れば警告灯で事前にお知らせをしてくれますし、車検までの2年&2~3万km程度はオイルを変えなくても若干燃費が落ちる程度でエンジン不調を起こすことは滅多にありません。

最終的には人それぞれの価値観による判断になりますが、「新車で買ったからしばらくは法定点検を受けておこう」、「将来高く売りたいから法定点検はするべき」などの考えで法定点検を受けることは、著者の個人的な考え方としておすすめできません。
法定点検を受けるなら、古くなっても点検を受け続ける覚悟を持つべきです。

また、乗っていて振動や音が大きく感じるなど、不安を感じた際に法定点検で一通り見てもらう行為は非常におすすめです。
場合によっては、車検から1年後の時期に縛られずに、不安を感じた時点で法定点検を受けるようにしましょう。