車買取でAI査定が普及する日は来るのか?

AIで行う車査定

IT技術の進歩が進んでいて、車業界でも一部でAI(人工知能)を駆使した査定算出システムが登場しています。
はたして、今後AIによる車査定は普及するのでしょうか?
長年、車買取業者に勤務していた著者の見解としては、オークション転売を前提にした場合にAI査定が大きくシェアを伸ばしていくでしょう。
直販の場合は、店舗ごとで利幅が違う特性から基準価格の参考になる程度で、最終的には経営者や管理者が裁量で算出した査定の方が高くなります。
また、信頼できるAIシステムがどのような形で普及するかで業界が大きく変わってきます。大手が独自開発したAIシステムが強ければ、チェーン店がシェアを伸ばして小規模業者は廃業する所が続出するかもしれません。

すで普及しているAI車査定システム

AIシステムを操作するイメージ

すでに実用化されているAI車査定システムをまとめました。

D-MATCH

D-MATCHはカーセンサーを運営するリクルートが車業者向けに開発した経営支援システムです。
業界屈指の豊富な中古車データを元に算出し、査定額算出のほか、店頭販売する中古車の価格設定を得意にしています。
販売する中古車を価格設定別に1ヶ月以内で売れる確率を算出する機能があり、すでに精度が高いと巷で話題になっています。
月額1万円の有料サービスですが、中小規模の中古車業者には必須サービスへ普及する可能性を秘めています。

横浜トヨペットなどが実用化したAIシステム

横浜トヨペットなどトヨタ系ディーラー3社を運営するウエインズグループが、グーネットを運営するプロトコーポレーションと共同開発したAI査定システムを2019年より運用開始しました。
従来は1時間以上かかっていた査定から価格提示までの作業を、AIの力で15分まで削減することに成功したようです。
ディーラーによるマニュアル査定は変化していくかもしれません。

DATUM STUDIO

ガリバーなどが導入するAI査定システムで、業者用オークションのデータを活用することで、より高い精度を実現しています。
従来は人の手による査定と業者用オークションの平均落札価格の誤差範囲が5%だったところを0.5%前後に抑えられる見込みです。
ガリバーは、AIによる接客システムの導入検討をするなど、ITを活用した業務改革に積極的です。

DMM AUTO

DMM AUTOでは、スマホで写真を撮るだけでAIが自動査定価格を提示するサービスを提供しています。
2018年6月に開始したサービスで、自分でスマホから写真を撮ってデータ入力するだけで、3分のスピード査定が提示されるシステムです。

実際の所、AI査定ってどうなの?

「AIと人間の裁量査定」を検証する場合、人間の実力によって状況が大きく変わってきます。
登場から1年以上経過したDMM AUTOの普及率が今ひとつになっていることや、大手チェーンでも一部で「最後は結局、管理者の判断」といった声も聞かれているので、現時点ではAI査定が必ずしも強いとは言い切れません。
横浜トヨペット系がAIシステムを導入したのは、精度の高い査定をするだけではなく、業務効率化を目的にしています。
しかし、AIは進化しているので、近い将来にはAI査定の方が圧倒的に高い精度を確保するように変わっていくかもしれません。

強いAI査定がどこになるかで業界が動く?

AIの車査定システムは、すでに実用化しているものが複数ありますが、精度は各システムで変わります。
今後はAI技術が進化を続ける一方で、強いシステムと弱いシステムの差が顕著になっていくことでしょう。

将来的に強いAI査定が、どのシステムになるかで中古車業界のパワーバランスが変化するかもしれません。
カーセンサーの提供するD-MATCHが普及すれば、月額1万円程度払えばどの業者も使えますが、大手チェーンが自社開発したAIシステムが強くなれば、大手チェーンのシェアが大きく伸びていきます。
反対に大手チェーンが自社開発にこだわり過ぎると、誰でも使えるAI査定システムに負けて、シェアを大きく落とす恐れもあります。
車買取業界の未来はAIの力にかかっていると言っても過言ではありません。

AI査定を導入しない業者はどうなる?

人の手で車査定を行う様子

車業界で長年の勤務経験がある人が行う査定の精度は現時点でAIシステムと互角以上です。
今後、AI査定システムが進化を遂げて、専門家よりも高い精度の査定ができるようになったらどうなるのでしょうか?

まずAIによる自動査定は主に業者用オークションの価格が重視されます。
オークション転売が中心の買取業者は、AIの査定精度が高くなると、競合した車で大きな利益を上げるのが困難になります。
安く買い叩いて儲かる車を仕入れられる確率が減れば、廃業や撤退する事態に追い込まれるでしょう。
将来、強くなったAI査定より高い価格を付けるには、自社販売など再販方法に工夫するか、徹底的にコストカットをするしかありません。

異業種からの参入が増える可能性

AIによるコンピューター任せの査定が精度を高めれば、現在のような中古車販売・買取を専門にしたお店でなくても車を売れるようになります。
たとえばショッピングセンターや部品量販店に、パートのスタッフが対応する車査定コーナーが用意されて、日常生活の中で手軽に車を売るようになるかもしれません。

専門店で車を売るメリットが失われた場合、小規模業者はコストカットをして生き残る方法が困難になります。
そうなれば、小規模業者がカーセンサーなどのAI査定システムを入れた所で、人件費をかけた運営では割が合わなくなってきます。
熟練した査定士による経験が不要になれば、大型商業施設と提携できる大手がシェアを伸ばしていくでしょう。

元業界人が想うこと

私はJAAI(日本自動車査定協会)が認定する査定士の資格を有していましたが、車の査定はそれほど難しくありません。
車種、色、グレードに加えて、パッと見で分かる外装と内装の状態だけで、具体的な査定価格を出すことが可能です。
同業者から車を仕入れる際は、電話による口頭の説明や、LINEで送られてきた写真のみで条件交渉をすることもありました。

車を査定する難易度で言えば、AIシステムに依存するのは可能です。
しかし、他社と競合した際や目先の1台をどうしても仕入れたい場面では、AIの査定に頼りっぱなしというワケにもいかないでしょう。

たしかに業務として車を買い取り際には、感情を抜きにしてデータから算出するAIの査定は効率が良いです。
しかし、みなさまが車を買う時はどうでしょうか?たとえば、気に入った中古車を見たけど、AIが「この中古車は割高」と評価された場合、安くならなかったら購入を見送りますか?
AIの信頼性が高ければ、購入しない結論を出す人も出てくると思いますが、その中の一部は「やっぱり買っておけばよかった」と後悔します。
中古車は1台ごとに状態が違うのと同じように、ユーザーごとに価値観が違います。

多少割高な価格設定でも購入したり、バックオーダーを入れたりといったユーザーがいる限り、AIによる査定システムが車買取業務を100%カバーすることは難しいでしょう。
つまり、AIの査定システムが普及する可能性の高さを認めつつ、昔ながらの中古車買取業者も根強い需要を確保していくのが著者の見解です。
いずれにしても、AIシステムの普及によって、車を売ろうとしている消費者の方は有利な環境へ変化していくでしょう。
AIの導入状況や活用するシステムの精度次第で、高価買取に強い業者が変化していきます。

「現時点で一番高く買取してくれる業者は実際に査定を取ってみないと分からない」

この車を高く売るための根本的なセオリーは、今後AIによる査定システムが普及しても変わらないでしょう。